ファイヤーマンその1・怪獣!

塾長が好きな怪獣の理想は、ズバリ「ゴジラ」。
シンプルな恐竜型フォルム。
CGやアニメと違い、中に人間が入っているがゆえの重量感。
大地を割って、濛々と土煙りをあげながら、砂まみれのまま「ガバァ」と出現する感じ。
モスラ対ゴジラ」における倉田浜干拓地でのゴジラ出現シーン、円谷作品で言えば「ウルトラQ」第18話「虹の卵」冒頭のパゴス出現シーンはいつ見ても鳥肌が立つくらい圧巻だ。
しかし70年代において怪獣番組が増えすぎたため他番組との差別化をはかる余り、怪獣デザインは複雑化の一途を辿り前述のようなシンプルな怪獣は姿を消していった。
そこで「ファイヤーマン」である。
原点回帰を謳ってるだけあり、登場する怪獣のほとんどは俺の大好物たるシンプルな恐竜型怪獣!
出現理由も地殻変動や自然破壊の影響など、この時代ですら使い古された感のある設定ばかりであった。


第1〜2話に登場したドリゴン(上)とドリゴラス。
初っ端から手垢のつきまくった角竜モチーフである。もうたまらんw
そして円谷作品ではシーゴラス&シーモンスとキング&クイントータスに挟まれた、2組目にあたる夫婦怪獣。こういった、ある程度擬人化された設定は人間側から感情移入しやすいせいか最後はヒーローに倒されずに海へ帰っていくようなパターンが多い。
だがドリゴン&ドリゴラス夫婦は最後まで自然の脅威、あるいは愚かな人類に対して警鐘を鳴らす地球の代弁者という怪獣が本来持つべき属性しか与えられていない。
まさに「ファイヤーマン」の初回に相応しい、その作品世界を象徴するようなキャラクターと言えよう(もっとも、回を重ねるごとにそういった設定も破綻していったが)。
ちなみにこの作品に登場する怪獣のデザインは池谷仙克、造形は高山良策。「今こそ本格的な怪獣を!」というスタッフの意気込みが窺い知れる人選という他はない。そして両氏は、その期待に真っ向から応えてくださった!

以前、怪獣倉庫に見学に行った時に見たドリゴラスの着ぐるみ。見よ、高山造形の完成度!
なお怪獣倉庫ルポは近日再録します。

第17〜18話に登場したキングザウラ。
この17〜18話の前後編は、ファイヤーマンが戦いに敗れ命を落とすもアバン大陸の長老の命を与えられ、新必殺技とともに奇跡の復活を遂げるという前半の山場とも言うべきストーリー。
そうなるとこの回に出てくる怪獣は他作品で言えばブラックキングやヒッポリト星人なみの強さとインパクトを持ったキャラクターでなくてはならないはず。
にもかかわらず、キングザウラはご覧の通り地味な単色に身を包んだオーソドックスな恐竜型である!この尋常ではないスタッフのこだわり!
かように大人しめのデザインではあるが、激しい噴火をバックに火口から猛々しく現れたり、それまでの必殺技だったファイヤーフラッシュを跳ね返す力強いシーンを見るにまさに強敵と呼ぶに相応しい迫力。
名怪獣とはデザインだけでなく、演出も重要なのだという事を教えてくれたのがキングザウラだった。

第6話に登場した宇宙恐竜スペーザー。
恐竜型の多いファイヤーマン怪獣の中でも数少ない変化球。体型から分類すると「タッコング型」といったところか。
こんな外見なのにあえて別名を「宇宙恐竜」とした辺りにスタッフの遊び心が見てとれる。それにしてもゼットンといい、円谷の「宇宙恐竜」はヘンなのばっかりだw
この第6話は謎の遊星ゴメロスが地球に接近するという「円谷プロ版・妖星ゴラス」とでも言うべき作品で、岸田森草野大悟らが主宰していた「六月劇場」の富川すみお(文字化けするので平仮名で表記します)のゲスト出演も印象的な「ファイヤーマン」の中でも比較的有名なエピソードだ。
しかし塾長的にはスペーザーに別の思い入れがある。
ガキの頃暗記するくらい読みまくった内山まもる先生の名作「ザ・ウルトラマン」に、ジャッカル軍団配下の怪獣軍団の一員として何とスペーザーが出演しているのだ!

「ぐわっはっは」と笑っている、オリジナルより恰幅のいいオニデビルの下でフヨフヨ浮いてるのは紛れもなくスペーザー!
第3次ウルトラブーム世代には、スペーザーはちと敷居が高すぎるって!怪獣博士を自認してた俺だけど、こいつだけホント何者か分からんかったわ。
ウルトラシリーズだけでなく、ファイヤーマンをもチェックする内山先生のマニアックぶりに脱帽!
ちなみにこのシーンの後、調子に乗ってるのをジャッカル軍団員に怒られて「大魔王様にはご内密に!」などとムチ状の手を合わせて謝る姿はめちゃくちゃカワイイw

第11話に登場した岩石怪獣スコラドン
本エピソードは、「高い方へ流れる水」のミステリーが中心である。
造成地の崖崩れを防ぐための特殊な強化剤により湖の水が超流動現象を起こしたというからくりなのだが、その謎解きだけでドラマとしては完結してしまっている。
したがって怪獣出現の理由づけも曖昧で、ファイヤーマンとスコラドンの戦いというクライマックスがドラマ全体を通して見ると蛇足に思えなくもない。
「逆流する洪水」の特撮も秀逸だし、謎を解くまでのシリアスな展開もテンポが良く、岸田森の名演も相まって「怪奇大作戦」のような雰囲気を醸し出した佳作だけに残念である。
もちろんスコラドンもカッコ良く、別のエピソードだったらもっと光を放てた怪獣のはず。ストイックなSF路線が仇になった数少ない例と言えよう。

スコラドンは死なず!「水系」の先輩怪獣ムルチとタッグを組んで、今度はウルトラセブンに挑戦だ!
…もちろんこれは撮影終了後のアトラクショーでのひとコマですw

第9話に登場したネロギラスはシリーズ初の、いわゆる「強敵キャラ」。
見ろやこの筋肉!カッチカチやぞ!
強いイコール筋肉質という分かりやすさはゾクゾクするぜ!
そしてこのネロギラスは主人公・岬大介の恩師である田所博士(平田昭彦!)を殺したという「怨敵」でもある。
よく考えてくれ、かつてオキジシェンデストロイヤーであのゴジラと相討ちになった男を一方的に殺害したのだ。これはもう強くないわけがないだろうw
さらに強者を強者たらしめるのは、過去の戦績である。あのレッドキングも、チャンドラーを倒しマグラをビビらせる実力があったからこそ、怪獣の王として君臨出来た。
そんなネロギラスと戦った顔ぶれが、怪獣好きにはたまらないマニアックぶり!

まずはロドグロス。登場時すでに首だけになっていたが、これは明らかに「ウルトラマンA」第9話に登場した超獣ガマス↓の流用。

こういうのを発見するとすげー嬉しくなるよねw
ヤプール人はこのロドグロスを超獣製造機にかけてガマスを作ったのかなと妄想すれば楽しさ倍増!

ネロギラスに投げ飛ばされようとしているのは、第3〜4話に登場したステゴラスの二代目。
ゴジラ」ラストでの山根博士のセリフではないが、一回登場した怪獣が最後の一匹である保証はどこにもないのだ。
メインストーリーに絡んでないだけで、まだまだ海底や地底には色んな怪獣がウヨウヨしているのだなと認識させられる、世界観に奥行きを持たせるに十分な描写と言えるだろう。

そして「帰ってきたウルトラマン」第5〜6話に登場したグドン!これは超大物ですよ。
あれだけウルトラマンを苦しめた大怪獣が、無残にも惨殺の末食い散らかされるインパクト!
ネロギラスの名声はこの一戦で決定的になったと言っても過言ではない。
ツインテールを主食にしているグドンを食うネロギラス…怪獣番組で初めて食物連鎖を3段階も描写したという意味でも興味深い。
そしてこのグドンも池谷・高山怪獣。意識的に選んだのか、たまたま空いていた着ぐるみを使ったのかは不明…まあおそらく後者だろうが、そういう「引き」の強さ込みで素晴らしいチョイスだと思う。
まあこれは高山先生が作ったオリジナルではなくアトラク用の着ぐるみなんだろうけどね。
そもそもこのネロギラスは群れをなして生活していたがエサがないため共食いをおっぱじめた末の、最後の一匹である。
ある意味前回紹介したキングザウラよりも「強さ」では上かもしれない。
キングザウラは宇宙人の尖兵だったが、ネロギラスはあくまで本能のおもむくまま自由奔放に殺戮し、捕食する。
残虐ではあるがキングザウラより明らかに「生命の息遣い」が感じられる、怪獣の本来あるべき姿なのだ。

最終話に登場した宇宙怪獣ダークマンダー。
さすがにシリーズも後半になってくると、怪獣も形こそ恐竜型だが宇宙怪獣だったり、巨大宇宙人やハーモニカ怪獣(!)など変化球が多くなってくる。
同時に予算も少ないので(まあ円谷プロの特撮作品の予算不足はもはや慢性的なものだが)、円谷のお家芸とでも言うべき「過去の怪獣の流用・改造」も多い。

ダークマンダーもその例に漏れず、↑ガドラザウルス(第26話に登場)の改造である。
地球の科学力では絶対に破壊できない、シャーク24号星から送り込まれた破壊兵器・物体Xから送り込まれた怪獣だが、こいつ自体は割とあっさり倒されますw
とはいえガドラザウルスから受け継がれたエキセントリックなまなざしと、今まで普通の怪獣のように吠えてたのに突然おっさんの声で「ダークマンダー!」と自分の名前を叫ぶインパクトで印象に残る怪獣ではある。
そしてこいつもスペーザー同様、俺らの世代が意外なところでリアルタイム遭遇した事があるのだ。

宇宙刑事ギャバン第36話「恨みのロードショー 撮影所は魔空空間」にて、「ミラーマン」のアロザと共にダークマンダーがゲスト出演しているのだ!
サブタイトルからも分かる通り、この回は映画の撮影所を舞台にしているので二体とも本物の怪獣としての出演ではない。しかしこの映画、死ぬほど見たい!

だがこの撮影所自体がギャバンを陥れるためのマクーの罠だった!円谷プロの二大怪獣がギャバンに襲いかかる!
まさに夢の対決。魔空空間は会社の壁をも超えてしまった!