ファイヤーマンその2・岸田森!


怪獣の王道ぶりもさることながら、「ファイヤーマン」が塾長の中で五本の指に入る円谷作品の傑作であり続ける理由として、SAF副隊長・水島三郎を演じた岸田森の存在は余りにも大きい!
本作は円谷作品における岸田森最後のレギュラー番組であり、そもそも彼のキャスティングありきの企画だったということで特撮界のみならず、日本映像界においても重要な作品であると岸田森ヲタの塾長は声高に訴えたい!
水島三郎は「怪奇大作戦」の牧史郎のような冷徹なる科学者と、「帰ってきたウルトラマン」の坂田健のように若い主人公をフォローする年長者という二つの属性を合わせ持ちながら、プラス「コミカルで飄々とした」独特のキャラクターとなっている。
自身によれば「あまりシリアスだと子供が恐がるから」との事だが、円谷育ちを自称する彼の最後のレギュラー作品の役柄としては申し分ない着地点と言えるだろう。

第2話「武器は科学だSAF」にて、海野(睦五郎)に入隊を懇願されるも「重大な研究テーマがあるから」と断る水島。
こういう表情(カオ)をさせたら天下一品である。

入隊を拒否したものの「君には僕の右腕になってもらいたかったんだ」という海野の言葉を思い出し、寂しげな笑みを浮かべながら右手を見つめる水島の胸に去来するものは?
そしてこの後水島はついにSAF入隊の決意を固める。
科学者としてのサガと海野との友情の狭間で揺れ動き、最終的に友情を選択するという「大人になった牧史郎」を見ているような展開は、水島三郎の人となりを端的に表現したベテラン若槻文三の腕が冴える見事な人物設計である。

先と前後するが第1話「ファイヤーマン誕生」にて、特殊深海潜航艇シーマリン号内で海野が来るのを待つ、所在なげな水島。
よほど退屈なのか、千葉隊員(平泉征)の帽子をかぶってみたりしている。
俺はシナリオを読んでいないので分からないが、恐らくこれは岸田森のアドリブではないか?
岸田森は徹底した役者根性を持ちながら、同時に仕事を最大限に楽しもうとするウィットさを持った俳優である。
現場で即興のアドリブを考えたり、衣装や小道具にこだわって役柄をデフォルメしたりするのは常套手段。
これは脚本通りか、それともアドリブか?と考えながら見るのも、岸田森出演作品の楽しみ方のひとつだと思う。

第6話「遊星ゴメロスの秘密」より、昔のドラマではおなじみの「電話を先に取られる」くだり。しかも途中まで気付かずに喋っているというベタぶり。
謎の遊星ゴメロスが地球に迫っているという緊迫した空気の中でも、水島はマイペース。水島が紹介するのを忘れてたばかりに、岬が竹原(富川)を不審者と思いこみ殴りかかった時も「ハハハ、若い人は元気だねぇ〜」などといつも以上に昼行燈ぶりが目立つ。
しかし、だからこそ竹原がゴメロスで死んだ時の水島の尋常ではない落胆ぶりが際立つわけで、このあたりの「計算された芝居」は見事だ。
竹原の死を目の当たりにして水島は「バカ…」と一言だけつぶやき、ファイヤーマンが助けに来た時も喜ぶどころか眉ひとつ動かさない。宇宙服にヘルメットでの撮影だった為、岸田森の細かい表情が分からなかったのが残念…。

第10話「鉄の怪獣が東京を襲った!」より、珍しいアクションシーン。剣道の経験があるとはいえ余り激しい殺陣は得意ではないようだ。
宇宙人に対し「SAFの水島だぞっ!」などととぼけた見栄を切るのが、なんとも水島らしくて可笑しい。
本人が味をしめたのかスタッフのウケが良かったのか(おそらく両方だと思うが)、第23話のグリーン星人との戦いにおいても叫んでいる。
ちなみにこの回に登場した宇宙人・バランダ星人のリーダーを演じたのは、「六月劇場」での盟友・村松克己。岸田森との絡みが少なかったのが残念だ。

第11話「よみがえった岩石怪獣」より、岬とともに湖の調査を終えて本部に戻る車内にて。
前回のスコラドンの項でも触れたが、ここでの水島は「怪奇大作戦」の牧史郎のような、科学調査に対して妥協を許さないクールな顔をのぞかせる。

岬が軽い気持ちで「ビーカーに採取した水が無くなってるんです」と言うと「なんだって」と険しい表情の水島。そして車を急停車!

衝撃で頭をぶつける岬。
ファイヤーマンだろうがアカレンジャーだろうが吉野刑事だろうが、牧モードに突入してしまった水島の前では完全にノム状態w

岬に別のビンに採取した水を調べさせるが、やはり空だった。
「ポリウォーター・・・」
事件の鍵となる謎のキーワードをつぶやく水島。「怪奇大作戦」では何度となく見られたシーンだ。
この回では水島ならではのコミカルな演技はほとんど無い。牧ファン必見の一本だ!



第14話「悪魔の海を突っ走れ!」にて、M海域へ調査に向かう途中のシーマリン号内で、束の間の休息時間を利用してちあきなおみの「喝采」を口ずさみながらパイプを削る水島。
海野隊長に歌を聞かれた恥ずかしさから、パイプを見せて気を逸らそうとするも案の定「歌もいけるんだな」と言われ照れまくる芝居が可愛すぎるw
岸田森が歌うシーンも超貴重なので、マニアはチェックすべし!


「ぼっさのば〜」
同じく第14話より、激しい海流に揺られてコーヒーをこぼしそうになる水島。そして踊るようによろけながらこのセリフ!水島だからこそ生まれたこの迷言w
そしてこの後、海域の異常現象に対し「狂ってる…地球が発狂してるんだ」などとすっかり牧モード。さっきまで「ぼっさのば〜」とか言ってた人とは思えないw
とにかく芝居の緩急の付け方が絶妙で、なおかつキャラクターに破綻がない。あるとすればそれは「意図的な破綻」なのだ。
次回はファイヤーマン特集最終回、テーマはもちろん岸田森のアレですぞ!