ファイヤーマンその3・朱川審!3 哀しき演者たち


「科学」という人々を幸福にするための力を持ちながら、かつては日本に、今また宇宙人に武力として利用され、失意のあまり世捨て人同然となった老博士。水島の祖父である。

喋る喋る、とにかくよく喋るバローグ星人。笑い声も下品で不快極まりない。
水島博士のロボット工学を利用して地球侵略を企む凶悪宇宙人だが、博士にとって彼らバローグ星人と、自分の開発した水島式水爆を戦争に利用しようとした日本とにどれだけの違いがあるのだろうか?
そういえば彼らは「バローグ星が地球を征服する」とは言わない。
「バローグ星の正義が地球の正義を征服する」と言う。
これはまさしく国家間の戦争の図式である。
子供番組において正義という言葉を、自らの残虐な所業を正当化するためのスケープゴートとして用いたという意味では、本作は「ノンマルトの使者」「怪獣使いと少年」と並ぶ問題作であり、このバローグ星人が「軍国主義日本」のメタファーであるとするのは考え過ぎだろうか?

かような祖父とは対照的に、科学の力で人類の平和を脅かす存在に立ち向かう事を生業にしている水島だが、いつ祖父と同じ境遇になるか分からない。
いやそれ以上に、科学者として尊敬し、身内として誇りに思っていたであろう祖父との出会いがこのような形で果たされようとは。
実は本エピソードでの水島はほとんどセリフが無い。
役者が脚本を書く時は自分の見せ場を増やしたがるのが常だが、岸田森は違った。*1
後述するが水島は二言しか喋らず、脚本ではカットされた別のシーンではあるが「…」という記述しかなく、事実上ゼロと言っていい。


その代り、その表情は多彩だ。
祖父と出会えた喜び、誰も信じられず自分以外の人間はみなロボットだと思い込んでしまう祖父に対する嘆き…あえて顔だけの芝居を己に課した岸田森の、役者としての揺るぎない自信を感じずにはいられない。

*1:初脚本である帰ってきたウルトラマン第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」では、岸田森演じる坂田健は大活躍しているが。