ファイヤーマンその3・朱川審!2 色彩の世界


戦闘機マリンゴンで宇宙を航行中の岬と葉山の前に現われた、薔薇の形をした光雲。
ガチガチの科学考証に囚われていては絶体に発想できない、夢のある素晴らしいイメージではないか。
「SF」と一口に言うが、それを「限りなくリアリティを追求した擬似科学の世界」と捉えるか「擬似科学をベースにした幻想的な世界」と捉えるかによって大きく異なってくる。
岸田森は紛れもなく後者であり、「映画や芝居は所詮ウソ。ゆえにSFとは最も映画向けのジャンルである」という持論をも展開するSFファンである。*1
そしてそんな岸田が思う円谷作品とは「色彩の世界」だそうだ。
なるほどウルトラシリーズのタイトルバックを始めとする、当時としては最先端の光学合成により生み出された美麗かつ幻想的な映像の数々を端的に表現した言葉だ。
そしてそれは岸田森がこよなく愛した、色とりどりの「蝶」とも重ね合わされる。*2
思えばプリズ魔も、オーロラの怪しい美しさが具現化された怪獣だった。
怪奇大作戦」でそれまで普通の役者だった自身の引き出しを増やしてくれた事に対し「自分は円谷育ち」と公言するほど思い入れがあるだけでなく、自分の美学にここまで共鳴する円谷作品に脚本が書ける*3という誇りと喜びの結晶が、プリズ魔でありこの「薔薇の光雲」であったと思えてならない。

老博士の研究室のシーンより、先程と似たような薔薇のモチーフ。
本エピソードの演出を担当した大木淳監督は実相寺ファミリーの印象が強いだけあって独創的なカメラアングルも見られるが、当時はどちらかと言うと鈴木清順の影響を色濃く受けていたらしい。
この二つの薔薇のシーンは、大木と岸田という二人の鬼才のセンスが見事に合致した映像美術の極みでもある。

「芝居?ハハハハ!…そうだったかも知れんな…観客のいない芝居だったかも…」

老博士は自らを嘲るように笑う。
この研究室のシーンでは、この美しくも儚げな薔薇をバックにした、暗さと息苦しさ、そして不条理さに包まれた「舞台」の上で、それぞれの演者が笑い、怒り、嘆く。
それぞれが心に抱えた闇を解放するように。
それはあたかもアングラ劇場で行われているシュールな舞台演劇のように異質な空間だ。

*1:ブラッドベリを愛読し、東宝特撮映画も全部見ているほどのSFファンだった。

*2:ロケ中、珍しい蝶を見かけると撮影を一時中断させて追いかけまわす程のマニアだったらしい。

*3:かねてから岸田森は役者だけでなく演出や脚本にも深い関心があり、後年水谷豊出演のCMを演出している。