訃報

big-cobra2015-12-11

作家の野坂昭如さんが亡くなられました。
不勉強ながら野坂先生の小説は読んだことがなく、かの有名な「どんな格闘技よりも見応えがあり、どんなコントよりも面白い」でお馴染み大島渚監督とのストリートファイトのイメージが強かったのですが、よくよく考えてみたら野坂先生は塾長の好きなジャンルに悉く関わっており、先生のバイタリティに今更ながら感服することしきりです。

まずは水木しげる関連。
1971年に「漫画アクション」誌上にて「野坂昭如異色文芸シリーズ」と銘打ち、野坂先生の小説を水木御大が漫画化するという奇跡のコラボが展開されました。
野坂先生似の小説家・庄助が、日頃嫉ましく思っているライバル小説家を不幸にしてやろうと「貧乏おそそ」(下げマン)で知られる芸者と一戦交えさせるもライバルの「福チン」が勝って芸者ともども幸福になってしまう「貧乏おそそ」、でまかせのエロ話が上手い不能の中年の物語「猥談指南」、インポでマザコンの夫を持つ欲求不満な妻が夫の父親と関係を持つ「たらちねの巣」などなど…これを高校生の時に初めて読んだ塾長は水木作品の奥の深さに驚愕したものでした。

水木作品には、野坂原作でも何でも無い作品にも「野坂アキユキ」なるキャラクターがチョイ役で登場することもあり、御大から見ても気になる人物だったようです。まさに天才は天才の心を知る、と言ったところでしょうか。
これらの作品群は現在では講談社から発売されている「水木しげる漫画大全集074 糞神島他」に収録されているのですが、巻末のあとがきには野坂先生ご自身が水木御大への想いをしたためており、必読です!

続いてプロレス関係。
やはり今年亡くなられた往年の名レスラー阿修羅・原さんのリングネームの名付け親は、何を隠そう野坂先生でした。
プロレスラーのリングネームといえば「ジャイアント馬場」「アントニオ猪木」のようにカタカナ+苗字が定番でしたが、敢えて漢字+苗字というセンス…しかも「阿修羅」も「原」も最後が「あ」で韻を踏んでいるので、口に出して一度は言ってみたくなる語呂の良さ。

そして何より、野坂先生がこの名前を付けて無かったら、あの名曲「阿修羅」も生まれてなかったわけで、テーマ曲マニアにとっても野坂先生は足を向けて寝られない存在なのです。
そして特撮。

円谷プロ制作の大人向け一時間ドラマ「恐怖劇場アンバランス」第9話「死体置場(モルグ)からの殺人者」。
久富惟晴(氏も今年亡くなられたお一人です…)演じる医大助教授・水上は医学部長の娘を妻に娶り教授昇進も間近。そんな中、教え子の情夫(マイティ井上の元夫人・西尾三枝子!)を乗せ車を走らせている時にあるサラリーマンをひき殺してしまう。今まで築き上げた名声と自分の輝かしい将来がフイになることを恐れた水上は事故を隠蔽すべく、死体を医大の死体置場に隠すが、怨念によって死体は甦り水上は殺されてしまう…という恐怖譚。
野坂先生は特別出演という事で、水上の教授昇進を祝う友人・坂野役でチョイ役でご登場。水上の奥さんに「小説から歌まで大変なご活躍ですわねえ」なんてご本人そのまんまの事を言われています。
「最近バケモノに興味があるんだが、例えば死んだはずの人間が生き返ってきたりするのは医学的にどうなのかねえ?」と問い掛け水上をドキリとさせるというだけの役回りだが、本職の俳優陣を向こうに張ってなかなかの存在感でした。
思えばこの「恐怖劇場アンバランス」は演出・出演問わず鈴木清順唐十郎蜷川幸雄などの「暴れん坊」が数多く参加していた。そういえば野坂先生の奥さんが「暴れん坊な人生だった」とのコメントを残しておられたが、これらの面子に決して引けを取らない暴れん坊である野坂先生も、ちゃんと主役級の活躍を本作で見たかったというのはもはや叶わぬ願いです。

さすがにハロプロには関わってないよなあ…と思ってたら、2002年発売の「ザ・童謡ポップス4 秋のうた集」で、稲葉貴子カントリー娘。ココナッツ娘。メロン記念日松浦亜弥藤本美貴石井リカという錚々たるメンバーが「おもちゃのチャチャチャ」をカバーしてたのを思い出しましたw
まあ、ご本人は全く与り知らぬことでしょうが…
とにかく野坂先生、恐るべし!

慎んで、ご冥福をお祈り致します。