ニックのテーマ考察

big-cobra2015-12-06

天龍源一郎の引退から間もなく、さらなるショッキングな別れがプロレスファンを襲いました。
ニック・ボックウィンクル逝去。
余りにも有名な「相手がワルツを踊れば自分もワルツを、相手がジルバを踊れば自分もジルバを踊る」という名言は、根はルー・テーズも一目置くストロングスタイルのテクニシャンでありながら対極のダーティ・チャンプとしても超一流だった彼の全てを表現しており、今現在まで通用する「トップレスラーたる条件」の一つだと思います。
慎んで、ご冥福をお祈りします。



(6:35くらいから)
さてニックのテーマ曲は団体を問わず謎が多いことでも知られていますが、特に全日時代のこの曲は有名。テーマ曲に詳しくなくても、耳にした記憶のある方も多いのではないでしょうか。
現在では「プロレス・イン・ハワイ」という名で知られていますが、そもそもこの曲名じたいが後になって便宜的に付けられたものなんですね。
実は正式な曲名・アーティストなど全てのデータが謎に包まれている、我々テーマ曲マニア泣かせの恐ろしい一曲なのです。

昭和54年の全日本プロレス中継内で、ニックのあのテーマに乗ってこれらのシーンが流れたのをご記憶されてるオールドファンは多いと思います。
この映像は「レスリング・ハワイ」なるハワイのプロレス中継番組のオープニングフィルムで、日本テレビのスタッフが現地から持ち帰ったものです。
昭和53年の最強タッグでニックに初めてあの曲が使われますが、その時の音源は先の映像から音だけをリッピングし、そのままの尺だと約30秒と余りにも短すぎるのでリピート編集を施したものなのです。


そうした経緯である以上、日本テレビとしては曲名やアーティストなどのデータなど知る由もないわけです。「ハワイから持ち帰ったフィルムに入ってる曲」という情報しかないのですから。


来日を重ねるごとにニックのテーマも人気と知名度を博し、昭和59年に日本テレビの系列レコード会社であるバップから発売される「メイン・エベント」というテーマ曲集にカバー収録されることになりました。
カバーとはいえ正式にレコード収録されるのに名無しの権兵衛じゃあ話にならないので、番組名の「レスリング・ハワイ」のテイストを残して「プロレス・イン・ハワイ」と命名したというわけなのです。


そんなわけで、未だにこの曲の正式なタイトルや出典は謎のまま。
「お前が調べて発掘しろや!」と思われるかもしれませんが、いやいや私が今まで発掘した曲とは「謎」のレベルが違いすぎるんですよね…
ナスカの地上絵とか水晶で出来たドクロとか…オーパーツみたいなものと思っていただければw


さて、先ほど編集を施したと書きましたが、その編集方法は2パターンあります。


(1)昭和53と55年の最強タッグ、そして57年に東京体育館で鶴田の挑戦を受けた時に使用されたもの。原曲を1回分リピートさせています。それでも倍の1分なので、ニックがリングインすると同時に曲が終わる事が多かったです。
(2)昭和59年に鶴田に敗れAWA王座から陥落した時からは、前のバージョンをさらに倍にして約2分弱の尺に編集したものが使われました。バップでカバーしているものや、現在流出して出回っている極度に音質の悪い音源はこちらのバージョンです。


ちなみに昭和58年の来日時は、ニックが比較的早くリングインしてしまう試合ばかりのためどちらのバージョンか判別出来ませんでした。
あと便宜上「原曲」と書いてみたものの、曲の出典が分からない以上、ハワイ映像のものがオリジナルバージョンである確証はありません。つまり真のオリジナルバージョンが別に存在し、それをオープニングフィルムの尺に合わせて編集を施した可能性も充分に考えられるわけです。

昭和58年のテリー・ファンク戦のみ、何故かミーコのスターウォーズが使われました。元々AWAのテーマという位置付けなので不自然な選曲ではないのですが、使用するタイミングが余りに唐突な印象を受けます。AWAのテーマという設定に準じたというより、何らかの事情でレスリング・ハワイが用意出来なかった故の緊急措置と思われます。
使われたのは次期シリーズの予告編や海外中継等のBGMに頻繁に使われたアルバムバージョンではなく、どういうわけかシングルバージョンの方でした。


続いて国際プロレス編。
国際で使われたのは、アメリカ民謡の「リパブリック讃歌」でした。
♪おたまじゃくしはカエルの子〜
♪権兵衛さんの赤ちゃんが風邪ひいた〜
♪丸い緑の山手線〜
…というアレです。このメロディを知らない人は恐らくいないでしょう。
泥臭いラフファイターが跋扈する中、久方ぶりに国際にやってきた正統派のアメリカン・スーパースターに相応しい選曲だと思います。


ただ。
メロディ自体は大変有名なのですが、他のテーマ曲と違い、特定のアーティストが存在しない民謡やクラシック音楽は、時代や演奏者などによって無数のバージョンが存在するので、会場で使われた音源を特定するのは不可能に近いのです。
よって、ニックに使われた「リパブリック讃歌」の出典はこれまた不明というのが現状です。


しかも。
現在確認出来る映像でニックが国際でこの曲を使用しているのは、昭和54年のラッシャー木村戦と昭和55年の大木金太郎戦の2試合のみですが、両方とも編集方法が異なっているのです。
文章では詳しく説明しにくいのですが、簡単に言うと「グローリー グローリー ハレルヤ」というサビのコーラスから始まるバージョンと、同じメロディの伴奏から始まるバージョンの2種類です。
同じ曲でも使われている部分が異なるため、両者が同一の音源かどうかも定かではありません。


ニックさんのレスリングスタイル同様、テーマ曲も大変奥が深い事がお分かりいただけたかと思います。
レスリング・ハワイ」は無理としても、「リパブリック讃歌」だけは何とか探り当てたいところですが…。