訃報


声優の青野武さんが亡くなられました…。
ちびまる子ちゃん」を人生のトータルで10分以上見た事の無い塾長としては、青野さんと言えばこれはもう「ウルトラマン」のザラブ星人に尽きるのである。
ザラブ星人と言えば「宇宙一のペテン師」として名高いが、ただのウソツキ野郎の一言では片付けられない、とても味わいのある、謎多きキャラクターである。


そもそも「ウルトラマン」の宇宙人は、次作の「ウルトラセブン」のそれに比べると、ダダのように侵略理由を明確にしなかったり、バルタン星人のように地球人と価値観や概念が違うだけでなく意思疎通すら出来なかったり、とにかく「異界の住人の不気味さ」が強調されていたように思う。
そんな中ザラブ星人は、口八丁手八丁で地球人を上手く丸めこむところを見ると、意思疎通が出来るどころか(小型翻訳機を携帯しながら地球人と会話する細かいSF描写!)地球人とある程度同じような価値観を共有しているようでバルタンのような不気味さは無い。
そして友好を装ったりヒーローのニセモノに変身したりするのはこの手の作品に登場する敵役の常套手段。作戦目的も「地球の支配」とハッキリ明言してるし、見る側にとっては想定内の悪行だ。「ダメだ、ウルトラマンは強い」と弱音を吐きながらも6体の人間標本を執拗に揃えたがる、ナゾだらけのダダのような不気味さも無い。


しかしザラブが他のどの宇宙人よりも謎めいた存在であり続ける理由は、彼がハヤタに言った以下の言葉に集約されている。
「私の狙った星はみな互いに戦い、滅んでいった。私はそうするために生まれてきた。そうする事が私の仕事なのだ」
「仕事」というワードが、この手の作品としては異色である。
「任務」なら分かる。「任務」ならば、彼の背後に軍事的組織の存在を匂わせ、彼はその先兵に過ぎないという「良くあるネタ」として見る者の中で処理する事が出来る。
「仕事」という言葉選びが彼の背後にあるモノを想像しにくくさせているだけでなく、「任務」よりもさらに「本人の意思ではない行為か否か」がぼやけてしまっている。


誰が彼に「仕事」をさせているのか?
彼はなぜその「仕事」に従事しているのか?
彼本人の意思は?
もし「仕事」で無かったら、彼は地球人と仲良く出来る存在となり得るのか?


全てが分からない。全てが闇の中。見る者の心に募っていくばかりの不安は、明らかにバルタンやダダに対するそれとは異質のものである。
その不安を煽るのは、先の一言を吐く青野さんの絶品たるセリフ回し。
少しでも語気を荒げれば、本人の意思でもある事がうかがえて凡百の悪役と大差が無くなってしまうし、逆だと今度はザラブ星人に視聴者の同情が集まり、ストーリーラインがぼやけてしまう。
むろん抑揚をつけていないわけではないのだが、どちらとも取れる、またはどちらか全く分からない絶妙な言い方なのだ。
青野さんでなければ、ここまでザラブ星人が名キャラクターになっていたかどうかは怪しい。
恐らくザラブ星人の着ぐるみにも青野さんは入っているはず。まさに体を張った大熱演というべきザラブ星人こそ、青野さんの代表作だと塾長は声を大にして言いたい!

そしてアニメではやはりコレでしょう、「ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-」の公孫勝一清道人!
十傑集・衝撃のアルベルトも警戒する、誰もが認める実力の持ち主でありながら常にナンバー2として縁の下の力持ちに徹する好漢。
SFものでありながら大時代的な雰囲気を持つ今川作品との相性はバッチリで、上の動画の他にも「願わくば淑女真君、大局をもって仇をとる!」「後ろに構うな大作少年!お主がなすのは前進あるのみ!」などの決め台詞は震えがくる程カッコ良かった!


謹んでご冥福をお祈り致します。