ウルトラマン・アート展〜池谷仙克講演会ルポ

big-cobra2011-12-04

桜井浩子さんのトークショーのあった初日、おれあん師匠と行った19日に次いで3回目の「ウルトラマン・アート」参戦でございます。てかもう、毎日でも行きてえっつーの!
ちなみに右上は19日におれあん師匠に撮ってもらったコブラ塾長vsメトロン星人の図でございますw
さて今回のお目当ては、ウルトラマンの美術スタッフにしてウルトラセブンの怪獣デザイナーでもあった池谷仙克先生の講演会!永遠の怪獣少年を自負する塾長的にはたまらないイベントだ。
少し早めに会場入りして喫煙所でヤニ食ってたら、何と池谷先生が一服しに来られた!うおおう!禁煙してなくて良かったー!!メトロン星人のご利益かなw
「今日の講演会楽しみにしてます!」と緊張しながら挨拶する塾長に、ベンチに座っていたのにわざわざ立ちあがって応対して下さったジェントルマンの池谷先生に感激!
先生のお姿を最後に拝見したのは確かセブンのDVDの映像特典だったかな?それともフィギュア王で金星怪獣ゴードをデザインした時だったかな?…記憶は定かではないが、とにかくあれからさらに齢を重ねられてダンディさに磨きがかかっておりました。俺もああいう風に年を取りたいもんです。


そして時間になり、中国のイベントに参加した際現地のマスコミに「ウルトラマンの体は皮膚か服か?」だの「ウルトラマンの権利はいくらで買える?」だのといった手ごわい質問をされて困惑したというマクラを経て講演開始。
美術の道に足を踏み入れたきっかけから、コダイとして「シルバー仮面」に参加したあたりまでお話されて時間一杯。桜井さんやこないだのマイティ井上さんのイベントでも思った事だが、過去色々な書籍や資料で知っていた話でも、やはりご本人の口から直接聞くと重みが違う。
最後の質問コーナーに行く前にサプライズが。何と飯島敏宏監督が飛び入り参加!!ずっと最前列に座っておられたらしい。全然気付かなんだ!!
中国に行かれた際にわずか15元(日本円にして200円!)で売られていた飯島監督の最新作「ホームカミング」の海賊版DVDを「お土産です。ショックを受けないで下さいね」とご本人に渡すという池谷先生の小粋なウルトラジョークを経て、お二人揃っての質問コーナーに突入。
飯島監督は来年で80歳を迎えられるとは思えないほど冗舌でご記憶も確かで頭の回転も早い。何度も言うけど、俺もこういう年の取り方をしたいもんです。


さて以下は、質問コーナーの質疑応答も含めた講演内容から、塾長が印象に残ったポイントを備忘録を兼ねて抜粋します。
それではフォースゲートオープン!

池谷先生がウルトラシリーズに参加したのは、成田亨先生に誘われたのがきっかけ。
当時ヌーベルヴァーグなどの洋画に傾倒していた池谷先生は「子供番組なんて…」とあまり乗り気ではなかったが、成田先生に「試写だけでも見てけよ」と言われてたまたま見たのがよりによって「恐怖の宇宙線」w
そのファンタジックな世界観と技術水準の高さに「これは子供番組などではない!」とショックを受けて以来特撮のトリコに…。
池谷先生を扱った文献では必ずと言っていいほど出てくる有名なエピソードだが、何度聞いてもいい話である。
以降、池谷先生と実相寺監督は名コンビとして子供向け、大人向け問わず名作を連発していくわけで、そう考えるとたまたま見た試写が実相寺作品だったというのは運命としか言いようがない!

池谷先生がウルトラシリーズで初めてデザインしたのは、実は怪獣ではなく地底戦車ベルシダー。
デザイン画の通りドリルが本体よりも大きく、円谷英二御大に「これじゃ本体の方が回っちゃうよ」と指摘されたとか。
池谷先生が御大に直接話しかけられたのは意外にも2回しかないらしく、これともう一回はセブンの末期に「予算オーバーしたのはお前にも責任がある」と言われたことw
もちろんその時も恐い言い方などせず、御大は我々のイメージ通りの優しくていつもニコニコした好々爺だったそうです。

池谷先生が初めてデザインした怪獣が、松坂慶子の体内に巣食ったことでおなじみのダリー。
我々素人目には何とも思わないが、これを見たウルトラシリーズの大半の怪獣の造形を手掛けた高山良策先生は人が入る着ぐるみとしてのデザイン上の欠陥を感じたらしく、池谷先生に「人の体というものはこうなってるんだ」と絵に描いて説明したそうだ。
以来、池谷先生は怪獣デザインを描く時常に高山先生の描かれた人体の絵を傍らに置いているとの事。今でもその絵は池谷先生の机の中に眠っているとか…見たい!

フック星人の造形物は、中の役者が呼吸をすると頬が凹んで耳が動くという予想外の動きをする事によって思わぬ効果が出たそうだ。
高山先生の怪獣の特徴は、とにかく素材が柔らかく動きやすい事。柔らかいという事は破けやすい事でもあるわけで、その都度修繕しなくてはならない苦労はあったが、ウルトラマンと格闘する上でこれほど適した造形家はいなかったとの事。
のちに「帰ってきたウルトラマン」で東宝の特美スタッフが作ったタッコングの着ぐるみが固くてチャックを開けても人が入れないというトラブルがあり、その時改めて高山造形の素晴らしさを思い知ったとか。

パンドンはデザインはしたものの、この時は既に後番組である「怪奇大作戦」に参加していたので撮影現場にはおられなかったそうで、なぜ双頭の処理が変更になったのかという怪獣少年にとって永遠の疑問については分からないとの事。
二つの首がそれぞれ動くイメージでデザインしたので、操演上の都合で変更になったのかもしれないと予想しておられました。
ちなみに池谷先生がデザイン画を描かれる時は水彩に限るそうです。
これは怪獣デザインを現場の合間を縫って描いていたため、途中で時間を空けても乾きにくく描き直しがしやすい画材を選んだからだそうな。

「壁ぬけ男」の特撮ギミックが飯島監督の発案だというのは有名な話ですね。
飯島監督は質問コーナーで、実相寺監督や満田監督との比較の上で監督としてのポリシーを訊かれた際「がむしゃらにやってたのでポリシーのようなものは無かった」と答えておられたが、その後の発言が印象的だった。
「本当はこういう区別をするのは違うと思うけど、あえて言うなら実相寺はアーティストで僕はアルチザン」
う〜ん、分かる!!とヒザを叩かずにはいられない的確すぎる分析でした。

「恐怖の電話」より。使い回しの画像で申し訳ない、桜井さんの憂い顔があまりにも美しいもので…w
池谷先生はこの作品で「桜井さんを燃やした」と記憶違いをされていて、案の定質問コーナーでマニアに突っ込まれてましたw
先生「でも誰か女性を燃やしたよね?」
客「いえ、燃えたのは男性ばかりでした」
監督「ここに桜井さんいなくて良かったね〜!」
何ともほのぼのしたやり取りでしたw


独創的なカメラアングルで知られる実相寺監督はどこから撮りたがるか分からないので、セットを組む美術スタッフは苦労したそうだ、
いつもは三面しかセットを組まないが、本作では実相寺対策としてフルセットを組んだところ、気合が入ったのかカメラを目まぐるしく移動させながらワンカットの長回しを敢行。それがあの有名な冒頭の現場検証シーンであるw
そういえば「当時の映像はエネルギッシュだった」という客の感想を受けて、飯島監督が当時と現在の現場環境の違いを指摘しておられた。
今の現場はとにかく打ち合わせがないと動く事が出来ないとの事。とにかくマニュアル優先なので急な事態に対応出来ない。
しかし当時は時間に追われながらその場その場で全員で力を合わせてやってきたので、実相寺監督のムチャぶりにも(大変だけれども)対応出来る。そうした皆の力がエネルギッシュな印象となって画面から伝わるのではないか、という旨の事だった。
なるほどな〜。

「ウチの寺が燃えとるどすえ〜!」と言ったかどうかは分からないが、本当に寺を燃やしてると思いこんだ京都じゅうの檀家から問い合わせが殺到したという逸話を持つ「呪いの壺」。
特撮のミニチュアの、火や水を使う場合ギリギリリアルに見える限界の大きさは四分の一だそうな。業界用語でいうと四分一(しぶいち)。
だが円谷作品では慢性的な予算不足のためそれ以下のスケールに縮めなくてはならないのが常だった。しかし本作では今度こそ四分一にしようとするがやはり予算が下りず。やむなく六分の一のミニチュアを作る事になるが、スタッフの一人(大沢哲三さんだったかな?)が間違えて屋根瓦だけ四分一で発注してしまう。
もう時間もないのでごまかしながらの撮影に臨むが、スケールを変えたせいで瓦が落ちるシーンが予想以上の迫力を産むという、絵に描いたような怪我の功名!
この事で池谷先生は、ミニチュアのスケールが決まっていても演出に応じて、敢えて部分的にスケールをずらすというテクニックを会得したのだった。
特撮って奥が深いな〜!

実相寺作品「曼陀羅」のモーテル。別名・岸田森のエログロ前線基地w
かつて福井でも同様のイベントがあり、地元のファンに「曼陀羅は福井で撮影されたそうだが、あのモーテルはどこにあるのか」と聞かれたが、あれは全部セットだと説明したそうです。

小学生の男の子から「バルタン星人の名前はどうやって付けられたのですか」という微笑ましい質問が。ここは飯島監督の独壇場だ!
だが「バルタン星人の名前の由来を考えてくれと誰かに言われた」とのっけから怪しい雲行きw
そして案の定バルカン半島だの「バルカンの星の下に」だのシルビー・バルタンだの小学生にとっては意味不明の語句を並べた挙句「バルカン半島とかじゃ宣伝にならないから、僕がシルビー・バルタンのファンだからという事にした」と一番子供に言ってはいけない大人の事情全開の答えに会場爆笑、子供はキョトンw
飯島監督も、子供に何て説明すればいいものか大変苦慮しておられるようでしたw

塾長も質問しました。
せっかくお二人がそろっておいでになるという事で、ここは「落日の決闘」について聞くしかないだろうと!
だが、池谷先生まさかのキングマイマイど忘れ!w
後になって思い出されたので良かったが、ちょっとズッコケちゃいましたわw


最後に、中学生くらい?の怪獣デザイナー志望の男の子から「怪獣デザイナーになるにはどういう勉強をした方がいいですか」というこれまた微笑ましい質問に対する、池谷先生の素晴らしい回答で締めくくりたい。
「自分の思った事や考えた事を他人に伝えるための技術だけは覚えたほうがいい。後は…勉強なんかより、いっぱい遊びなよ