内山ウルトラ曼陀羅・その1

big-cobra2011-12-15

今回は内山まもる先生特集。内山先生のウルトラ作品は、以前から何らかの形で取り上げようとは思っていたけれど、こんなタイミングで紹介する事になるとは…。
さて内山先生と言えば何と言ってもメロスであり大魔王ジャッカルであるのだが、ここは敢えてメロス以前、第2期ウルトラシリーズをリアルタイムでコミカライズしていた時期に注目したいと思います。
数年前にいわゆる「コンビニ漫画」で完全復刻されて塾長を狂喜乱舞させた、内山先生の「帰ってきたウルトラマン」から「ウルトラマンレオ」までのコミカライズ作品から、テレビで描ききれなかった部分や、東京ドーム何個分かも計り知れないガキどもの想像力から繰り出される尽きない妄想を巧みに補完するコミカライズの名人芸を堪能せよ!


まずは暴君怪獣タイラント編。
今でこそタイラントはウルトラ世界における「最強」のシンボルとしてカリスマ的な人気を誇っているが、実はテレビの本編では現在の人気に見合う活躍をしていない。
この手の番組における「最強」の敵の存在意義は大きく二つのパターンに分けられると思っている。
一つは「ドラマを盛り上げる為」の存在で、これが最も理想的なパターン。強大な敵に対して、明らかに力で劣る主人公側が一敗地にまみれた末、知恵と勇気だけを武器に立ち向かう…だからこそそれに打ち勝った時のカタルシスの強さは果てしなく、またその敵役も引き立つ。
顕著な例は「セブン暗殺計画」におけるガッツ星人だろう。「さらばウルトラマン」のゼットンもそのバリエーションかもしれない。


それに対してもう一つのパターンが「徒花」タイプ。これが残念ながら最も多いのでは。
例えばウルトラ兄弟や歴代ライダーなどの特別ゲストを登場させるため、あるいはスポンサーの要請等で新兵器を登場させるための理由付けにすぎない、「強敵」という名の「噛ませ犬」。
ウルトラ兄弟を越えてゆけ!」におけるタイラントはまさにそれだった。
ウルトラ兄弟をゲストに出すためとは言え、ゾフィからエースまでの五兄弟を倒していくという展開は素晴らしい。まさに「最強」を描く上でこれ程分かりやすいストーリーはない。
さて、残るタロウはどう戦う?というのが最大のヒキなわけだが、この物語の主眼はタロウのタイラント攻略ではなく、光太郎が出会った自転車に乗れない少年がいかに努力して乗れるようになるかという事なのである。
タロウが勇気の大切さを説くため、強大な敵に立ち向かう…まあ「タロウ」という作品自体の世界観を考えると「らしい」ストーリーではあるのだが、タイラントの個性はこの時点で消失した。
確かにドラマを盛り上げる役割は果たしたが、ガッツ星人と違いタイラントは物語の主軸を担う存在には成り得ていない。
しかも、タロウは特に労する事もなく、タイラントをあっさり撃破してしまう。ハッキリ言って、タロウがピンチになった度合で言えばエンマーゴの方がよっぽど強敵だw
後世になって、複数の怪獣が合体した子供受けのするキャッチーなデザインと、「ウルトラ兄弟に連勝した」という分かりやすい特徴のみが掬い出され今の地位を築き上げる事が出来たが、冷静にオリジナル作品を見直してみるとタイラントは決して恵まれた扱いを受けてはいないのである。
あ、そういえば前後編でもないしw

前置きが長くなったが、ここで内山版である。
低年齢層向けにストーリーを簡素化するのはコミカライズの基本だが、それによりタロウとウルトラ兄弟タイラントしか出てこない生粋のバトルストーリーがテンポよく描かれており「タロウよ、どう戦う?!」とハラハラさせる、これぞテレビで味わいたかった興奮!
ここまでなら内山先生でなくてもそう描くだろうが、何と光太郎は事故で左腕を負傷しているというオマケつき。内山先生はとことんタロウを追い詰めているのだ。タイラントに立ち向かうタロウの姿からは、少年を勇気づけようとする大人の余裕はない。兄弟を倒され、手負いのまま戦地に赴くギリギリの男のドラマ!


そして大きく唸ってしまったのが決着のつけ方。
強大なタイラントに対して劣勢に立ち、進退きわまったタロウは何と太陽の近くまでおびきよせ、自分も焼け死ぬかもというリスクを背負いながらも何とかタイラントを太陽に放り込み倒す!
ウルトラ戦士ですら勝てない奴を倒すには太陽にでもブッコむしかない、例えそれが諸刃の剣でも…というわけだ。これぞ強敵に相応しい散り際ではないか!
深読みすれば、あの金城哲夫を激怒させたという市川森一の名作「ウルトラセブン参上!」への意趣返しとも取れる。やはりタイラントのお腹を描いてる内にピンと来たのだろうか?w
とにかく内山先生は、俺達がイメージするタイラントを既にリアルタイムで補完して下さっていた。「気付くのが遅くてすみませんでした!」と謝りたい気分だ。
おっと、タイラント編だけでこんなに長くなってしまった!…というわけで、また次回。